死体の臭い

まず確認しておきたいんだが「フレーメン現象」をご存知だろうか。あの、馬とか猫とかが「ハカーッ・・・」って顔をする奴のことです。
ボクがフレーメン現象を知ったのは「ケムマキ」で怖い話を読んだからでして、その話は「猫ってのはね、頬の裏に臭いを感じる器官があるんで、特定の臭いを嗅いだとき、例の笑ってるような顔になるわけだ。それがフレーメン現象だ。そしてフレーメン現象を引き起こす臭いってのは死臭だ。僕の家の前、猫が笑ってる。部屋に隠した彼女の死体がバレそうだ。」といった内容でしたよ。それを読んだボクは、うわぁ猫怖ぇ、フレーメン怖ぇ、と思ったのでした。
時は流れて現在。ちょっとした事情で猫サンと短期間同居することになりまして、猫と生活するなんて初めてだワイ、子供の頃は捨猫を子ども達で内緒で飼って親に怒られたもんだ、なんて感慨にふけりながら縦横無尽に飛び回る猫を眺めていました。
本棚にもぐりこんで中身を床に投げ出したり、急ぎの仕事があるのに机を占拠したり、風呂場で硬〜いウンコをしたり、沖縄でつくった琉球ガラスのコップを割ったりする猫との生活も残り少なくなったころ、部屋にある物の匂いはすべて嗅ぐ任務を遂行している猫がピタリと足を止めました。ジーッと止まったまま臭いを嗅ぎつづけています。なんだオマエ、なに嗅いでんだ。
止まったまま動かない猫が必死に嗅いでいるのは、漢方の胃腸薬でした。あ〜、この前、ちょっと呑み過ぎたからな。そうか、オマエも慣れない環境で胃が痛いか。スンカスンカと鼻を微妙に動かしながら臭いを嗅ぎつづける猫に「気に入ったならあげるよ」と声をかけようとした時、猫がこっちを振り向いて、ハカッ・・・と笑いました。フ、フ、フレーメン現象!!
たしかフレーメン現象は死体の臭いに反応した猫の見せる表情のはず。なんと漢方の胃腸薬がソンな臭いだとは!・・・いや待てよ、まさか胃腸薬だと思って飲んだビンの中身自体が・・・まさか。
ボクの動揺を知ってか知らずか、猫は何度も臭いを嗅いでは「ハカーッ・・・」と笑顔を繰り返します。フレーメン現象だ、見間違いじゃない、確かにアレはフレーメン現象だ。し、したいのにおいで、あぁ、あぁ、猫が。
ジッと見つめるボクの視線に気づいたのか、猫は床に座るボクに近づいてきました。まだ笑ってる。ボクを観ながら笑ってる。なんだ、何が言いたいんだ猫。ボクは猫に向かって指を伸ばします。トントンと軽やかに近づいてきた猫はボクの指を無視してクルリと向きを変え、床に投げ出したボクの足に近づき、スン、と臭いを嗅ぎました。スンスン、スンスン。・・・ハカーッ・・・
わぉ、フレーメン現象!!
どうやらボクの足は、漢方の胃薬と同じ臭いみたいです。そんなに臭ぇか。