コレクター魂

あれは学生の頃でしたかね。当時の僕は親からもらった昼飯代でガム(60円)を買い、残りをゲーセンに突っ込むゲーム大好きっ子でした。といっても当時から正確なコマンド入力が必要な格闘ゲーは苦手で、連打連打のシューティングやハング・オン、アウト・ラン等の体感ゲームがメインでしたけれど。
そんな時、それまでは正体不明のヌイグルミ程度しか景品として入っておらず、100円で3回はできたUFOキャッチャーが景品をゴージャスにして生まれ変わり、今までゲーセンに入ったことなんて無いっていう女の子やら子供連れやらが増え、UFOキャッチャーに人だかりができるようになったのです。僕にしてみれば突然のUFOキャッチャー人気。それまでもゲーセン店頭のUFOキャッチャーをやってはゲットしたヌイグルミを近くにいた子供に押しつける迷惑少年(当時)をしていた僕は、取れない採れないもう1000円ダヨ、などと口走るカポーを横目に100円で景品をゲットしては、あーうめぇー、などと囁かれてニヤける悪趣味少年(当時)と化していたのです。いける。これはイケルぞ!格闘ゲーではギャラリーを作れない僕でも、UFOキャッチャーなら注目を浴びられる!なんだなんだ取って欲しい景品はないのかドレだドレだ取りにくいってのはドレだコレかコレが取れないのかホイ、取れた。いる?いえいえ、どういたしまして。ウヘヘ。気味が悪いですね(当時!)。
それからもゲーセンに行った時は最後の100円で別に欲しくもないUFOキャッチャーで腕試しをするのが習慣になっていました。その日もゲーセンに行きストIIで秒殺され、格闘ゲーはいつまでたっても苦手だUFOキャッチャーやって帰るベ(方言)と店頭へ行くと、新しい景品が入っていました。アンパンマン。メインキャラクターだけでなく、サブっていうか脇役っていうか見たことあるような無いような丼物もあります。あぁ、メインだけでも取っておくかな。軽い気持ちでカレーパンマンを取り、家に持って帰ったのです。
翌日いつものようにゲーセンに行くと、店頭のUFOキャッチャーで妙に喜んでいる子供がいました。そっかー、お子様はアンパンマンが好きか。取れてよかったね。お母さんもよかったね。うんうん。その日はドキンちゃんと食パンマン様を取りました。
さらに翌日。アンパンマンはどうかな〜?と様子を見にゲーセンに寄ると、何があったのか、あらかた取り尽くされて中身がスカスカになったUFOキャッチャーが。ななな、なんだ?!なんでそんなに人気あるんだ?!これがアンパンの力か。ボクの頭を食べろと言うのか。頭が汚れて力がでないのか。取られる前に、取る!まずはアンパン、相手のバイキン、カレーと食パンは取ってあるから名前の知らないアレとコレとソレと、よっしゃー!コンプリートゥ!さすがに全部1回では取れなかったけど、まぁよかろ。うふふふ、UFOキャッチャー得意だからね。へへへ。さーて、このゲーセンでは秒殺されちゃうから他のゲーセン行くべ〜。次に行ったゲーセンは地下にあるので狭い階段を下りて行きます。知らないと入りにくい雰囲気なのでお客さんも少なく、乱入される事も少ないので格闘ゲーの練習にはもってこい。カンコカンコと階段を下りていくと、見慣れない筐体が。あら、UFOキャッチャーじゃない。人気のないゲーセンでも最近の流行には敏感なのね〜ってアンパンマンだ。人気あるんだね。ま、僕はもう全部取っちゃったからやらないけど〜って何だあの丼は。あの丼は!持ってない!当時はインターネットなんぞ一般的ではなかったので何種類あるかを知っているのは景品を入れた業者と店員だけで、お店にある景品を全種類取ればコンプリートだと思いこむしかなかったのです。ま、全種類取るって決めたんだから、丼も取っとくか。100円投入。ウィーン。ニーン。ガッシリ。おっしゃ。グリャリ。あれ?ポロ。おわッ。失敗。失敗!っていうかUFOキャッチャーの筐体がボロくて、ヌイグルミをつかまない!キャッチャー部分をバッチリな位置に降ろしてるのに、持ち上げる時にスカッっと開きやがる!なんだコイツー!!
4回ほど試しましたが全て持ち上げられず。UFOキャッチャー得意と名乗っていたプライドもズラボロです。おかしいよ掴んでるのにバネが弱すぎるんだよ持ち上がらないんだモンこれじゃ無理だよ詐欺だよそうだ詐欺だ!人気があるからって取れないように細工しやがったんだ!もう来ネェ!!別のゲーセンで取る!!!プライドを砕かれ、怒りとヨボヨボの気持ちを引きずって帰宅。床にヌイグルミを並べ、明日はまた別のゲーセンに行ってみよう、そして丼を取ろう、コンプリートさせるゾ!と決意する僕なのでした。
それからというもの、ゲーセンに行く度にUFOキャッチャーを覗き、例の丼を探してみるものの、なぜか入れているゲーセンがありません。アンパン、バイキン、ドキン(敬称略)ばっかり。三日が過ぎ、一週間が過ぎ、僕はだんだん焦り始めました。ドウしよう、見つからない、このままじゃ人気も落ちて景品がなくなっちゃう。当時でもゲーセン景品の入れ替わりは激しく、人気がないとみるや速攻で入れ替わることもあったのです。マズイ、人気の高さからみてアンパン達はもう取られまくってる。モタモタしてるとこの世から消されちまう!焦った僕は、例の地下にある店に再び舞い戻ったのです。ありったけの小銭を握りしめて。
実をいうと、丼の捜索から四日目くらいから「他の店に無くね?」と感じていた僕は、例の丼がまだ店にあるのか毎日確認していたのでした。狭い階段を降り、UFOキャッチャーの前へ。昨日と変わらない積み方で丼がこちらを見つめています。まだあった。当然です。誰にも取れるわきゃナイんです。キャッチャーがスカスカなんだから。
ポケットの中の小銭を確かめると、まずはじっくりと景品の積み方を眺めます。ここまで右に動かして、あそこまで後ろに、ここで降ろして・・・キュピーーーーーン!見えた!店内にいた何人かのお客のなかには、僕のオデコの前で光が煌めくのを感じた人がいたかもしれません。100円投入!ウィーン。ニーン。ガッシリ。グリャリ。ポロ。おわッ。100円投入!ウィーン。ニーン。ガッシリ。グリャリ。ポロ。おわッ。100円投入!ウィーン。ポロ。100円投入!ウィーン。ポロ。100円投入!ウィーン。ポロ。ウホーーーーーッ!!一回で取れないのは前回の勝負で判ってるので、連続して少しづつ動かし、取り出し口まで転がす戦法です。くらえ、なけなしの小遣い!ポロ。ポロ。ポロ。もうイヤーーーーー!!あと100円だけ試してやめよう。弱気になります。ポロ。あと100円!ポロ。100円!ポロ。100円!100円!100円!ポロ。ポロ。ポロ。スコン。よっしゃーーーーーーーー!!!!
結局、ポケットの小銭をほとんど使い果たし、丼を取ることができました。思わずあげた雄叫びに、後ろで僕をみていたカポーの彼氏が苦笑いをしているのが見えました。ごめんな彼氏。丼はイタダイタゼッ!
いや〜長かった。金もかかった。仕方ないサ、コンプリートのタメだもん。とにかく、これで全種類そろった。よかったよかった。家に帰り、並べたアンパン達を見ながら悦にいった僕なのでした。懐かしい思い出だ。そのヌイグルミ?すぐ捨てた。だってヌイグルミとか興味ないし。それ以来、トレーディングカードだのチョコエッグだの言われても、トンと興味が湧きません。コンプリートものはもうたくさんだ。集めたってジャマだし。